農業産出額に占める米の割合は,近年低下したとはいえ昭和56年で30.6%と単品では断然トップである.しかるに,わが国農業の最大の構造的弱点は,この稲作をはじめとする麦作,大豆作,飼料作などいわゆる土地利用型農業の近代化の遅れである.土地利用型農業は,いずれも経営規模の零細性と経済性の低さという困難な問題をかかえているのである.
こうした実態に対して,80年代に入って稲作など土地利用型農業の近代化に関する様々な政策,提言,見解が発表された。それらは,いずれも多少のニュアンスの違いはあるものの,一様に経営規模の拡大,それも借地型のそれを期待している.
したがって本稿でとりあげる大規模借地型稲作経営は,稲作近代化の担い手として位置づけられ,それが広範に形成されることが期待されているのである.もちろん,稲作近代化の担い手としては,他に種々の大規模な生産組織を忘れてはならない.ただ,それらが大規模借地型稲作経営と同等に生産カ発展の主体として期待できるかどうかは問題である.
ところで,大規模借地型稲作経営とは何か.本稿では,稲作を基幹作目として,稲作の規模の経済性と自立経営水準の所得を実現するため,自作地に借地を加えて規模を拡大している家族経営で,その稲作規模5~10ha程度と定義しておこう.ただ,5~10ha程度が大規模であるかどうかは問題かも知れないが,それが現実的な目標規模なのである.
さて,このような大規模借地型稲作経営は,各地に点在的に形成されているが,十分面的な拡がりをもって形成されてはいない.そこに,稲作をはじめとする土地利用型農業の構造問題があるのであるが,点在的に形成されているそれらの経営自体も様々な経営的(技術的,経済的)問題点を抱えているのではなかろうか.そして,それぞれの大規模借地型稲作経営の実態は,それぞれの地域の稲作農業の実態を投影しているのではなかろうか.また,水田の技術的条件,若年労働力不足,高令化など,条件的に恵まれない農山村・山村部では,平坦部・平地農村部に比べてとりわけ問題が複雑で深刻であると思われる.そこではまた,産業構造上農業の地位が相対的に大きく,農業産出額中米の占める割合の大きい地域が少なくなく,稲作農業の問題はまさに地域経済の重要な問題でもある.
このような問題意識のもとに,この小論では,島根県内の農山村・山村部の5戸を含む8戸の大規模借地型稲作経営の実態調査をもとに,経営の実態を分析することにより,大規模借地型稲作経営発展への課題したがって成立条件を明らかにしたい.このことはまた,それぞれの地域の稲作農業近代化への課題を示唆する意味も持っているといえる.