投球動作は, 捕手の方へ向かって体幹の重心を移動させながら行われる動作であり, 前方への体重移動やボールをリリースする際には足趾で地面を捉える筋力, いわゆる足趾把持筋力も重要な役割を果たしていると考えられる. 本研究では, 野球部の投手経験者と野球以外の種目を専門とする者を対象に, 足趾把持筋力を含めた筋力と投球速度の関係について明らかにすることを目的とした. 対象は, 大学の野球部に所属する投手経験者12名(野球部投手群), 野球以外の種目を専門とする大学生12名(一般学生群)の計24名である. 球速は, ピッチャーマウンドからホームベースに向かって投球した際の球速を, スピードガンを用いて計測した. 筋力の指標として, スクワット, ベンチプレスの最大挙上量, および握力(利き腕), 背筋力, 足趾把持筋力の最大値を計測した. 野球部投手群においては, 球速と足趾把持筋力に有意な相関関係が認められ(r=0.663, p=0.019), その他の筋力の項目については, 球速と有意な相関関係は認められなかった. 一方,一般学生群では全ての筋力の項目において球速と有意な相関関係は認められなかった. また, 軸足と踏み出し足のそれぞれの足趾把持筋力と球速の関係を検証したところ, 野球部投手群において, 軸足の足趾把持筋力と球速に有意な相関関係が認められた(r=0.758, p=0.004). 以上の結果から, 野球投手における軸足の足趾把持筋力は, 球速に影響する一要因であることが示唆された.