日本語の「動詞+動詞」型複合動詞には「言い漏らす」「書き漏らす」「聞き漏らす」など二つの動詞が補文関係の意味関係を形成する語彙的複合動詞「~漏らす」が存在する。このような語彙的複合動詞は近年影山(2013)によりアスペクト複合動詞と捉え直され、日本語複合動詞の謎を解く手がかりがあるものとされる。本論はこの語彙的アスペクト複合動詞「~漏らす」についてその発生と展開を歴史的な視点から明らかにすることを目的とした。その結果、このような複合動詞は平安時代から見られるもののその意味関係は現在とは異なり、二つの動詞の意味を文脈の支えをもとに重ね合わせたものであることが明らかになった。現代語における補文関係の意味関係が見られるのは鎌倉時代以降で新たに生まれた「討ち漏らす」の意味関係を既存の「書き漏らす」「聞き漏らす」「見漏らす」に当てはめ、再解釈したことによると考えられる。