ヨアヒム・ハインリヒ・カンペは、18世紀末ドイツにおいて活躍した教育者集団である「汎愛派」を代表する人物の一人として見做されている。教育史において、カンペは、「汎愛派」の総領バゼドウの協力者、またバゼドウの後継者世代の一人として知られ、その結果、広範囲にわたるカンペ固有の活動については十分に顧慮されてこなかった。しかし近年、バゼドウの後継者世代と言われるカンペ、トラップ、ザルツマン、ロホーといった人々に光が当てられ、彼ら固有の活動が評価され始めている。カンペは、18世紀末ドイツにおいて活躍していた教育思想家や教育実践家を招集して「実践的教育者の会」という組織を設立し、当時の教育思想を精査した。そして、その具体的成果として、全16巻から成る著書『実践的教育者の会による教育に関する普遍的点検』を刊行した。カンペの活動は、学問としての教育学が成立する前段階において、18世紀末ドイツの教育思想を精査する重要な試みであるが、これまで十分に顧慮されてこなかった。本稿では、このようなカンペの活動を分析することで、「実践的教育者の会」のコーディネーターとして手腕を発揮するカンペの新たな一面を明らかにした。