『増鏡』において、『弥世継』は、『栄花物語』と四鏡を中心とする正統歴史物語の系列を成り立たせる作品として重視されている。しかし、実体はそれとは異なり、王朝的「世継三作」(『栄花』『大鏡』『今鏡』)の類縁作品であったと考えられる。現在の『弥世継』理解は、『増鏡』によって再編成された一直線状(直列型)の歴史物語系列に基づくものであるが、近世には二様の享受方法が確認できる。歴史物語系列の完備を目的とする外観的享受と平易な日本通史の習得を目的とする内実的享受である。前者は「十語五草」に象徴され、標題のみの『弥世継』を生み出した可能性がある。後者は荒木田麗女による歴史物語『月のゆくへ』創作を促したと思われる。このような、『弥世継』理解の変転は歴史物語全史の展開に関与するものとして重要である。