Bulletin of the Faculty of Agriculture, Shimane University

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Bulletin of the Faculty of Agriculture, Shimane University 4
1970-12-15 発行

中国山村地域における労働力流出と農地移動

Outflow of rural Population and Mobility of arable Land in Chugoku mountainous Districts
Watanabe, Haruki
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 昭和30年ころまでは,中国山村地域の大多数の農家は「米と木炭と和牛」の経済構造のもとで,低所得,低生活水準の偽装的均衡をよぎなくされていた.
 ところが,こうした僻遠な山村地域においても,昭和30年以降,とくに30年代後半ころから本格化する日本経済の高度成長に伴って,労働力が大幅に流出し,資本と強くかかわりをもつこととなった.
 高度経済成長の初期段階では,山村地域の労働力流出形態は新規学卒者が主導的であったが,しだいに基幹労働者の出稼,人夫・日雇化という型で質的変化を伴いながら,現段階では挙家離村による流出も加わって労働力流出が本格化してきている.
 山村地域は,都市近郊地域と異なって,通勤形態での雇用機会がきわめて少なく,いきおい居住地を離れて雇用市場を求めざるをえない.
 通勤可能な範囲の農村地域では兼業化に伴って農村杜会はそう大きく変ぼうしないのに対して,山村地域では兼業化すること自体が長期間にわたって居住地を離れることであるから生産・生活活動に決定的な影響を及ぼすのである。
 山村地域の兼業機会は出稼,人夫・日雇などの不安定就業によるものが多く,農家経済を支えるためには限界地的性格の強い劣悪な土地にもしがみついて農業生産を継続しなければならないのである.
 しかし,米の生産過剰時代を迎えた現在,昭和45年産米から平地農村,山村一律に水田の一割減反政策がうちだされ,山村地域での経済基盤は一層ぜい弱なものとなり,「山村へ引きとめる力」はさらに弱まってくるであろう.そして,山村地域の労働力流出に一段と拍車をかけることになる.
 最近,山村地域のどこでも地域開発の手段として企業誘致が積極的に提唱されている.
 島根県の山村地域においても,昭和37年以降「一町村一工場」を目標に,縫製,弱電気などを業種とする労働集約的な女子労働力主体型の企業進出が目立っているが,はたして,こうした企業の誘致が,山村地域の住民の多くを留村させ生活できるだけの所得確保の方策になりうるか,きわめて疑問である.
 山村地域の開発方向は,企業誘致による農外就業の機会をつくることも一方法として考えられるが,より基本的な開発方向は山村地域の農林業資源を積極的に利用する方向で考えだす必要があろう.
 本稿では,以上のような認識のうえにたって,日本の高度経済成長過程において,中国山村地域における労働力の流出形態がどのように変ぽうしてきているのか,また,その結果,農地の移動,利用の状況がどのように変化してきているのかといった点を明確にし,これからの山村地域の開発方向に一つの示唆を与えることができれば幸である.