Bulletin of the Faculty of Agriculture, Shimane University

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Bulletin of the Faculty of Agriculture, Shimane University 7
1973-12-15 発行

ぶどう産地の展開方向 : 島根県大杜町における「下層農家」の対応

The Development in Grape-Producing Districts
Hamada, Toshiki
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古くより畑作商品作物,とくに養蚕地帯として著しい展開をみせてきた大社町の農業生産は,30年代前半の繭価暴落を契機に養蚕が衰退し,地区農業の柱を失なった.そしておりからの経済の高度成長,それに伴う年々の急速な勢いでの家計費,とくに貨幣支出額の膨脹のなかで農家の兼業,脱農を顕在化した.
 このように養蚕の衰退は大社町の農家に大きな影響を及ぼしたが,畑作地帯における商品生産農業は,価格動向,あるいは自然的条件の変化に伴う変動などに常に直面しており,安定的・固定的な性格の強い稲作地帯の農業と異なって,変動への対応も強い.その結果,大巾な兼業化,脱農化の傾向のなかで新たに商品生産の展開をはかろうと,ぶどう(デラウェア種)への転換が急速な勢いで進んだ.そして,今日とくに40年以降ハウスぶどう産地としての地位の確立をみると,脱農化は依然として進行するなかで,残された農家による上向展開,つまり専業,I兼の増加,II兼の減少の傾向が顕著にみられる.
 こうした展開のなかで,とくに注目されるのはぶどう生産において産地への展開基盤となる大杜町農家の一戸当り耕地面積52a,またぶどう栽培農家も耕地面積100a以下層が全体の64.5%を占め,さらにぶどう面積30a以下層が77.4%を占めるというその零細基盤にある.
 一般に果樹作は,他の農作物に比べ多額の資本投下,長い育成期間,あるいは高度な技術をともなうため良質・多量な労働力が要求される.そのため果樹栽培へ対応しえる農家の中・上層性がいわれている.しかも,果樹作農家の中・上層性は早くから展開をみせた専業的大産地よりも,養蚕・工芸作・普通畑作から転換をはかり,最近発展しはじめた新興産地において,上層農家の果樹作経営への転換とその先進性が強くあらわれている.といわれている.
 本稿ではこういった一般的現象を踏しゅうせず,上層から下層まで含んだ広範囲にわたってぶどう生産の展開をみせている新興産地大杜町のぶどう農家の行動をみ,とくにそのなかで「下層農家」の産地形成過程における対応をその経営のなかから分析する.