刑法は国家権力の最も敏感に反映する法領域である。本稿においては、右の基本的視点に立って、通常、律令国家といわれているわが古代国家の刑法典である律をとりあげ、その国家権力の性格がどのように刑法典たる律に反映しているかを、特に、その罪刑法定主義的制度の分析によって考察し、もって、今日的問題を考える上での参考に資したいと思う。なお、わが古代国家の刑法典である律には、大宝元年(七〇一)に完成し、大宝二年に施行きれた大宝律六巻と、養老二年(七一八)に編修され、天平勝宝九年(七五七)に施行された養老律十巻があるが、以下、本稿で律と称するのは養老律を指す。