島根大学論集10周年記念論文集

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島根大学論集10周年記念論文集 1
1960-02-29 発行

東大寺本金剛般若経賛述仁和点続貂

On the Construing Marks of "The Glorification of the Kongo-Hannya-Sutra"
大坪 併治
ファイル
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内容記述(抄録等)
 東大寺図書館に、承和十一年(八四五)延厳書写の金剛般若経賛述巻上一巻がある。全文に白墨の訓点が施され、巻末に、同じ白墨で
  仁和元年七月卅日聞了  講師忠最
と記されてゐる。即ち、仁和元年(八八五)に、講師忠最の所講を聞いて、何人かが加へたものである。
 本点を発見された人は、故大矢透博士で、博士は仮名字体を中心とする調査を行はれた由であり、春日政治博士も、識語及び仮名字体について言及されたことがある。ただし、訓点の全般に関する紹介は、中田祝夫博士の[東大寺蔵 金剛般若経讃述の仁和元年訓点に就いて」が最初であり、この論文は、その後更に加筆された上、「古点本の国語学的研究 総論篇に収められて、多くの学者の利用するところとなってゐる。
 わたしも、中田博士の紹介に導かれて、本点を調査する機会を得たが、その結果を整理し、改めて博士の所論を読み返してみると、記述が簡単過ぎて、説き洩らされた点が少くなく、また、解読の仕方に、多少疑問とすべき点のあることを知った。それ故、わたし自身の調査の結果を報告し、博士の紹介の補正を試みさせて頂かうと思ふ。実は、咋秋博士にお会ひし、本点調査中の由をお話したところ、「あの論文には、自分でも満足できない点がある。どうか徹底的に調べ直して貰ひたい。」 といはれ、訓点付きの古版本二冊を貸与された関係もあり、本稿を草することは、いはば博士との約束に基づくものである。ただし、数次の調査にも拘らず、わたしにもまだ解決できない問題が残つてゐて、博士のご期待には到底沿ひ得ないであらうことを、予めお断り申上げておく。ただ、本点を利用される方々のために、いくらかでも役立つところがあれば幸ひである。
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