最近の農家階層構成の変化はかってみられなかったほどの規模と速度で進行し,かつ階層分化の分岐軸が漸次上昇して1.5haに達したことを特徴としている.下層農においては兼業化とくに第2種兼業農家化が一層進行しているものの完全な脱農現象はなお小部分に止まり,多数は第2種兼業農家の再生産というかたちで滞溜しているのである。しかし大部分の農家が分化・落層しているなかで,一部の農家は上層へ上向していることを見逃がしてはならない.
たしかに中国地方においても上層農家の増加は緩慢ながらみられるが,こうした農家がはたして基本法農政が目標にかかげた企業的経営につながるものとして考えられるのか,あるいはさらに資本家的経営の発展型としてとらえられるのであろうか、中国地方における上層農家の分析を試みたのも実はそうした問題意識があったからである.
こうした問題を解くにあたって,まず上層農家の性格を明らかにしておくことが必要であろう。これが本稿における最初の分析作業である.上層農家の性格が明らかになればおのずと上層農家の評価ができるわけであるが,本稿での分析によれば資本家的経営の内容はおろか企業的経営としての条件をととのえているものは上層農家の中でもかなり限られた農家である.
そこで上層農家がこうした資本家的経営ないしは企業的経営にまで上向できず,いわば頭打ちの状態にあるのはいったいなぜであろうか。第2の分析作業はこういった資本家的経営ないしは企業的経営農家の存立条件を吟味することである。存立条件を規定する要因としてはいろいろ考えられるが,そのうちでも主要因と考えられる土地価格と経営の収益性(生産性)の面にとくに焦点をしぽって考察してみよう.農家の経営上昇の方向は耕地規模の拡大によるばかりでなく,経営内容の集約化による内包的な規模拡大によってなされている場合が多い.とくに最近のように農地価格が農業的利用の採算基準となる収益地価をはるかに越えた水準にある場合一層集約化による内包的な規模拡大が上向形態の中で優位を占めることとなる.中国地方における代表的な作目について収益地価を試算し,現実の売買価格と対比しながら耕地規模拡大の阻害要因になっているかどうかを検討してみたい.
つぎに,一般に大規模経営の有利性がいわれているが,各経営部門別にみるならは,その有利性が実証できるのはどの範囲の経営規模においてであるのか、この点を第3に確かめてみたい.
そして最後に,以上の分析結果より上層農家が資本家的経営ないし企業的経営へ上昇・発展するために必要な若干の問題点を指摘したい.
上層農家の統計資料としては,さいわい65年中間農業センサスで年間販売金額100万円以上の農家を対象に「大規模農家調査」が実施されたので,この統計数値を全面的に利用しながら分析を進めていきたい.したがってここでの上層農家はこの「大規模農家」を意味している.なお「大規模農家調査」においては収益性(生産性)指標がほとんどないために,そうした分折においては農林省の農家経済調査系列の統計資料を利用した.