リアリズムという語はわが国ではさまざまな分野でそれぞれ独目の意味に解釈されており、その故にまたその訳語もさまざまである。たとえば哲学思想の領域では観念論やプラグマティズムと並ぷ意味での実在論として、あるいはスコラ哲学の系譜の中においては実念論として使われており、文学、芸術等の分野では写実主義あるいは現実主義の意味に使われることが多い。教育思想の領域においてリアリズムという場合、従来はこれを専ら近世のコメニウスを始めとする一連の実学主義的、あるいは実科主義的な思潮を指すものとして扱つている。事実教育史上のリアリズムはそのような性格のものとして発展してきた。しかしながら、リアリズムあるいは多少ともリアリスティツクな傾向を一般的に問題とする場合、さらに特に教育思想の現代における動向を問題とする場合は、歴史的用語としての「実学主義」、あるいは「実科主義」の意味に解しては、その内容を充分に把握することができないであろう。こゝにとりあげる「リアリズム」がそうした従来からの特定の訳語に結びつけられないで原語のまゝで使われるのはこのような事情による。