Recent studies on ice cores and deep sea sediments have revealed that abrupt and rapid climate and sea-level changes occurred frequently durmg the Late Quaternary. The brackish lake sediments which represent non-glacial varve layers record the detailed environmental changes, however, it has been difficult to detect such rapid changes from lake sediment cores. One of the reason of the difficulty is the lack of the method for collecting intact sediments for systematic ana1ysis. Here we present our systematic research procedure with improved efficiency,which includes an improved coring device for obtaining intact brackish lake sediments,initial description, sampling, and several analytical methods. This enables us to detect environmental variations on annual to decadal time scale.
人類が急速に進化した時代である第四紀には,数~十万年スケールの氷期一間氷期サイクルにともなう,自然環境の変動が生じていたと考えられてきた(成瀬,1982)。しかし,近年グリーンランドの氷床堆積物や北大西洋や日本海の海底堆積物および中国内部の陸上堆積物の研究から,約1000~3000年周期で気侯や海水準が突然かつ急激に変動することが知られるようになってきた(Dansgaard et al.,1993;Bond et al.,1997;Chen et al.,1997;多田,1997)。このような急激な環境変動は,過去の人類活動に大きな影響を与えてきたと思われる。
海陸境界に位置する汽水湖沼は,さまざまな環境変動を堆積物に記録している。たとえば,福澤(1995)は,水月湖湖底堆積物の明暗ラミナの互層が1年ごとに形成された「年縞」であり,さらに湖底堆積物は天然の寒暖計,検潮儀,雨量計,地震計などの環境変動検出計でもあることを明らかにしている。また,湖沼堆積物の堆積速度は海洋堆積物と比較すると大きいことからも,汽水湖底堆積物を分析することによって,さまざまな環境変動を高時間分解能で復元できると考えられる。しかしながら,湖沼堆積物コアの従来の研究からは,短い時問スケールの急激な環境変動を捉えることができなかった。その原因として,堆積物の記載を含む採取・分析方法に問題があったと考えられる。
堆積物の採取や試料の分割・分析には多くの時間と労力が費やされる。琵琶湖深層掘削研究の例が典型的である。世界に先駆けて行われた琵琶湖の湖底掘削では,有機・無機地球化学,微化石,火山灰などの総合的な研究がなされ,気侯変動や古地磁気変化などに関する多くの情報が明らかにされた(Horie,1984)。しかし,堆積物の欠層や分析試料の時間分解能の低さ,分析機器の測定誤差などのために,この研究成果がまとめられるまでには多くの時間と労力が費やされたばかりでなく、数千年単位の自然環境変動を検出することはできなかった。
これらのことから,短い時間スケールの急激な環境変動を湖沼堆積物から検出するためには,より効率的な精度のよい堆積物の採取・記載・分析が必要となる。近年,地球環境の将来予測が重要視されてきている。その将来を知るためには過去を知らなければならず,そのためにもわれわれは,地球環境の変化してきた過程を総合的に明らかにしなければならない。すなわち,汽水湖底堆積物をこれまでよりも効率的に精度よく採取・分析することは,われわれ人類が将来歩む道を考えるうえで非常に重要であるといえる。
われわれの研究グループは,季節単位あるいは1年単位で過去の環境変動を記録している堆積物を欠層なく連続的に採取して,年単位の気候・海水準変動を明らかにしてきた。この論文では,われわれの研究グループで行っている堆積物の採取・分析方法を,堆積物から得られる情報について,その意味する堆積機構や環境の変遷に言及しながら紹介する。