Laguna : 汽水域研究

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Laguna : 汽水域研究 5
1998-03 発行

神西湖湖底堆積物中から検出された洪水イベント

Flood Events Recognized from Lake Sediments in Lake Jinzai, Shimane Prefecture, Japan
沢井 祐紀
丹後 雅憲
髙安 克已
ファイル
内容記述(抄録等)
In order to make clear the historical flood events in the Izumo plain, four bore-hole samples were taken from LakeJinzai, Shimane Prefecture, western Japan.
Several analyses such as grain-size analyses, diatom fossil assemblage and measurement of total organic carbon contents, total nitrogen contents and total sulfur contents have been carried out on these samples.
Consequently, one horizon of each lake sediment shows rapid changes as follows. Median has changed from coarse tofine.Sorting has mutated from poorly to well. Total valve number per g and complete valve percents of diatom fossil in lake sediment have decreased. Total organic carbon contents and total sulfur contents have decreased, and total organic carbon content per total nitrogen ratios have increased.
These results of analyses suggest that this horizon is the turbidite deposited due to historical flood events in 1964.
日本各地に点在する湖沼群は,その生産性の高さから古来より人間活動の中心となってきた。この湖沼の堆積物には,当時の人間活動に大きな影響を与えたと考えられる環境変化の記録が詳細に残されていることが期待され,近年の研究において海水面変動や気侯変動だけでなく津波,洪水などのイベントを湖沼堆積物の解析から読みとり,その規模・頻度等が議論されるようになってきた(例えば,井内ほか、1993;福沢ほか、1994;本田・鹿島、1997など)。
神西湖は島根県出雲平野の南西部に位置し,江戸時代に人工的に開削された差海川によって海と通じている汽水湖である。本湖は,その排水性の悪さから洪水を繰り返し,周辺の村・田畑に被害を出してきたことが古文書によって記されている(出雲市役所,1973)。この証拠は,神西湖の湖底堆積物中に顕著に残されていることが高安ほか(1995),丹後ほか(1996)によって既に指摘されており,さらに詳細な調査を行うことによってこれらの自然科学的な裏付けが詳しくされていくと考えられる。
以上のことから本研究では,当時の人間活動だけでなく神西湖や出雲平野の形成において大きな影響を与えたと考えられる洪水イベントの証拠を,神西湖湖底堆積物中から検出することを目的とした。湖底堆積物中から地震,洪水などが原因と考えられるタービダイトや堆積異常層を認定する試みは,井内ほか(1993)が琵琶湖の湖成堆積物中の粒子比重のピークを求めることによって行っている。また,福沢ほか(1994)は福井県水月湖において,湖底堆積物の粒子比重,緑泥石/イライトの比率を洪水イベントを示す指標としている。本研究では,湖底堆積物の粒度分析を行い中央粒径,淘汰度などの垂直変化を求め,全有機炭素濃度,全窒素濃度,全硫黄濃度測定の地球化学的手法,さらに珪藻分析という古生物学的手法を加えることによって洪水堆積物の検出を試みた。