Laguna : 汽水域研究

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Laguna : 汽水域研究 5
1998-03 発行

鳥取県東郷池湖底堆積物の層序と年縞

Stratigraphy of bottom sediments in Lake Tougou-ike, Tottori Prefecture and Non-glacial Varves
加藤 めぐみ
福澤 仁之
安田 喜憲
藤原 治
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内容記述(抄録等)
Sequential cores oflaminated lake sediments which consist of alternations of light and dark-lamina, were taken from Lake Tougou-ike, western Japan. The sedimentary microstructures of these sediment cores, and the relationships between numbers of lamina and calendar dates calculated from 14C dates suggested the following;1) The laminated sediments are non-glacial varved sediments, deposited from about 9,000 to 2,000 calyr. BP.2) Highresolution investigations of magnetic susceptibility, mineral compositions by powder x-ray diffraction method and physical properties of these sediments revealed environmental changes around Lake Tougou-ike during Holocene.3) Flood events and volcanic eruptions of Mt. Sambe around 4,300 years ago were recorded in the sediments. Based on abovementioned investigations for environmental changes, we indicated that centurial-and millennial-scale changes in accumulation rates are detected from the thickness of the varves, and suggest that these non-glacial sediments are very useful to determine accurate chronological dates of these environmental changes.
1992年に鳥取県東郷池において掘削・採取された湖底堆積物に,バーコードのような縞状堆積物が連続的に発達することが明らかになった。そして,この縞状堆積物が「年縞(non-glacial varve)」(福沢,1995)である可能性が大きいと判断された。また,この縞状堆積物には火山灰層や泥流堆積物層が数多く挟在することが確認された。もし,この縞状堆積物が年縞であるとすれば,火山灰を降灰させた火山噴火や泥流を引き起こした白然災害イベントの年代を1年単位で復元できかつ再来周期をも推定できることになる。過去の環境変動を季節~1年単位で記録して,それらの変動を高精度に編年できる試料としてサンゴ骨格,樹木年輪および氷床コアが存在する。これらの試料に比べて,「年縞」は人類の多くが住む低~中緯度での環境変動を,しかも長期間にわたって連続的かつ高精度に記録した堆積物である。また,地球上におけるグローバルな環境変動に対するローカルな変動の同時性,異時性および時間的ずれを1年単位で明らかでき,「年縞」を使うことによって地球表層の気侯システムや地球規模の環境変動のトリガーをさぐることが可能となろう。
 年縞(non-glacial varve)とは一般に「1年に水中で堆積した層(bed),葉理(lamina)あるいは葉層のシークエンス」と定義される(福沢,1995)。1年単位の堆積層が認められる堆積物として,氷河・氷床の前面で砕屑物供給の季節的変動によって形成される規則的な互層からなる氷縞粘土(glacial varve)が知られている。そのほかにも,化学的および有機的な作用で1年間に沈殿・堆積したさまざまな年縞堆積物(non-glacial varved sediments)の存在が世界各地の湖沼において報告されている。年縞の形成条件としては,第1に湖沼への堆積物の供給量,湖沼内部の酸化還元状態などの化学的環境,生物活動などの季節的変化があることが挙げられる。第2に水温躍層もしくは密度躍層が存在し湖水の垂直循環がほとんど生じず,湖底が生物擾乱によって乱されないことが挙げられる。以上の2点をみたしてはじめて年縞堆積物が形成されて保存される。汽水湖沼では,湖への海水の流入によって密度躍層が形成されて湖沼の鉛直循環が生じにくいため,湖底は酸素に乏しい還元的な状態になり,酸素を必要とする底棲生物の活動が制限され年縞が良好に保存されている。
 本論文では,鳥取県中部の日本海側に位置する東郷池の湖底堆積物の層序について述べ,そして年縞と考えられるラミナの成因をまず明らかして,次にこの縞状堆積物に挟まれる火山灰層や泥流堆積物について、その特徴を明らかにすることを目的とする.なお,この論文は著者の一人加藤めぐみによる1997年度東京都立大学理学部地理学科卒業論文(加藤,1998)の一部に新たな事実を加えたものである。