周知の如く,昨年(昭和35年)農林漁業基本問題調査会は,我国農業のあり方に関する答申をなした。従来の600万戸の自作小農維持政策の伝統をすて,農業構造の改善を行い,それによって農業の生産性を向上し,農業と他産業間の所得均衡を図るという方向を打ち出してきた。
農業構造の改善なくして我国農業の発展は不可能といっても過言ではない。所得均衡・生産性の向上による収益の増大ということも,現在の農業構造をそのままにしておいては実現不可能であろう。農業構造の改善を左右するもっとも大きな要因は,国民経済全体の成長と就業動向である。
並木正吉氏は,「農業就業人口の推移は,昭和25~30年の5ヶ年は年に25万人,年率にして1.6%の減であった。その後も引き続き減少しており、農林省農家経済調査で年間60日以上農業に従事したものをみると,昭和27年から31年までの間,年率2%の割で減っていた。もしこの調子で減少しつづけるならば,10年後の昭和45年には農業就業人口は約1170万人となるはすである。戦前の農業就業人口は1400万人と大体一定していた。だからここにはじめて顕著な減少を記録することになるわけだ」と指摘された。
我国全体としての農業就業者の動向は上に引用した所論で明らかであるが,島根県においてもこの動きの例外をなすものではない。小論においては,島根県の農家労働力の就業動向を労働面及び所得面から検討し,あわせて農業構造の変化動向にふれてみたい。