近年,高等学校を中心に修学旅行の目的地として海外を選択する学校が少しずつ増え始めている。生徒にとっては国際的感覚を養うとともに,国際的視野拡大に対するまたとない機会といえるが,地理教育の立場から考えると,地理的見方・考え方を養える実践の場としてとらえることが可能である。また,近年は科学的態度の育成やそれを実現するための体験的学習の推進が叫ばれているが,海外で実施される修学旅行はこのような体験的学習を実践する絶好の機会であり(小峯編,1994),日常生活とは離れた海外ゆえにその効果が大きいことも期待される。したがって,生徒が修学旅行を含めた研修旅行で海外へ渡航する際,教科活動の一端を担える可能性は十分にあると思われる。事実,国内同様,海外の国や地
域を対象とした地域調査を実施する必要性は,高等学校地理の学習指導要領に明示されている。既に,海外における地域調査の意義を評価したり,海外への研修旅行の具体的な実践を紹介している報告もある(例えば,池田,1997;一ノ瀬・江崎,1997など)。しかし,これらの報告は海外における研修旅行のノウハウを紹介している側面が強く,現地での地域調査の方法論を吟味する段階には至っていない。
そこで,本研究においては高等学校の生徒が修学旅行を含む研修旅行の一貫として海外で地域調査を実施する場合の,調査手法やその学習意義を地理教育の視点から検討することを目的とする。
研究方法としては以下の通りである。まずはじめに,高等学校における地理歴史科「地理A」「地理B」の学習指導要領に記載されている海外地域調査の記述を検討し,高校生の海外研修旅行における学習意義を改めて吟味する。それと同時に,新学力感に提示されるような学習理念と照らし合わせ,学習効果の可能性を検討する。次に,生徒が実際に海外地域調査を行う場合の調査方法を検討する。最後に,わが国にとって最も有名な海外旅行目的地であるアメリカ合衆国ハワイ州を事例として,生徒が海外において地域調査を行える可能性を具体的に提示し,調査手法や問題点について個別に検討を行う。
なお,本文において文部省が著した学習指導要領の記述を多用するが,原則として1989(平成元)年版高等学校学習指導要領(文部省,1989)に基づいている。