本研究は,動作解析コンピュータシステムを用い,いろいろな学習を試みることによって,初心者の砲丸投の指導に際しての基礎的な手がかりを得ようとするものである。そこで,これまでの報告の概略を説明する。
第1報においては,砲丸投の熟練者と未熟練者の投動作を比較分析するため,それぞれの投動作における身体各部位の速度変化,身体各部位の軌跡,そしてスティックピクチャーを中心に考察を行った。
第2報は,異った2つの学習を同一被験者を対象として行い,それぞれの学習による効果を比較分析した。その学習の1つ(series 1)は,被験者に対して技術に関する情報は与えず(陸上競技規則の中の砲丸投に関するルールと,投法としてのその場投げの説明は行う),ただ記録の向上を目指して1日20投,計7日間のトレーニングを行うものである。そしてもう1つの学習(series 2)は,その場投げによる砲丸投の手本(熟練者をモデルに,立って構えた姿勢から投げ終えてリバースするまでのもので,砲丸の保持,動作を開始する前の構え,投げ,リバースといった各局面における留意点等を詳しく入れたもの)のVTRを被験者が毎回行うトレーニングの直前に観察させ,その後1日20投,それを7日間繰り返し行うといった学習の方法である。
第1報の熟練者と未熟練者との比較においては,両者に投動作における支持脚(右投げの人は右脚)の動きに差異があると考えられた。つまり,投げの動作のなかで大変重要な局面と考えられる支持脚のすばやい伸展に伴う動きが,未熟練者にはあまりみとめられなかった。そこで,第2報のseries 2においては,その支持脚の使い方や動きにポイントをおいた手本を作製し,それを利用した学習の効果をみると,3被験者それぞれ差はあるものの支持脚の効果的な動きがみとめられるようになった。
これらの学習を踏まえ,更にseries 3を行った。この学習方法は,被験者が学習で行う投動作を毎回VTRで撮映し,そして学習を行う直前に前回の学習のとき撮映した本人のVTRを写して観察させ,そのあと再びseries 2で利用した手本のVTRを観察させてから学習による投動作を開始するという方法である。
このように,series 3の学習で特徴づけられることは,被験者自身が本人の投動作をVTRによって随時観察できるところにある。そして,手本と被験者自身の投動作を比較,観察することが,その後の投動作の学習にどのような結果をもたらすかを究明しようとした。