昭和58年,中央教育課程審議会は,二十一世紀の日本の教育を考えて次のように経過報告をした。
「今後特に重視しなければならない視点として自己教育力の育成がとりあげられる。自己教育力の核心は,主体的に学ぼうとする意志,態度,能力の形成と確立であり,生徒に「学習への意欲」と「学習の仕方」を習得させることをめざしている」
この経過報告にあるように,今後ますます数学教育における情意面の研究は,重要になっていくであろう。
数学教育のねらうものは,日常の事象と数学の世界のかかわり方を通して,あるいは数学の世界での思考,操作などを通して,「数学的考え方」つまり数学的に考える力・態度,数学的に処理する力・態度を養うのである。これらの形成と確立を可能にする土台となるものが,「数学に対する自己概念」であり,これらの形成と確立を前進させる力を与えるものが,「自己をみつめながら学び続ける意欲」である。
このように数学教育の中核的目標となる「数学的考え方・数学に対する態度」の育成には「学習意欲」は必要不可欠なものとなる。
そこで,筆者は,学習意欲(やる気)とは何か,それはとんな条件下で発生するか,それは数学学習でとんな効果や役割を与えるかといった面での理論的ならびに実際的・実験的アプローチを算数・数学学習において試みてきている。
子どもが算数・数学の問題解決をしようとするとき,その問題解決の強さは,「やってみたい」という成功達成傾向と「失敗したらいやだ」という失敗回避傾向の相対的な強さによって決まるといわれている。(Atkinson,J.W.(1966))
このように数学学習におけるやる気には,失敗回避傾向(これは不安におきかえられる)は伴うものである。
したがって,数学学習におけるやる気に関する研究では,数学に関する不安の研究はさけて通れないものとなる。
そうした方向からのアプローチの一つとして「数学学習不安」の因子構造とその変化・変容を明らかにする。