島根農科大学研究報告

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島根農科大学研究報告 7
1959-03-31 発行

経験主義的教育目的論

On the Empirical Aim in Education
Kanetsuku, Tadao
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国民の総意によつて,教育理想を明示したわが国教育史上画期的な法律である教育基本法は,昭和二十二年制定された。同法第一条に,教育目的をかかげているが、その前文には,民主的で文化的な国家を建設し,世界の平和と人類の福祉に貢献し幸うとの決意を述べ,その理想の達成は教育の力にまつべきであるとし,個人の尊厳を重んじ,真理と平和を希釆する人間の育成,普遍的にして個性的な文化の創造をめざす教育を期すると述べている。まことに美しい言葉の羅列である。このように美しい表現を,単なる1ip serviceにおわらせないために,基本法の正しい理解を必要とするであろう。ところが,これは案外むずかしいことである。まず考えられるのは,、条文の成立過程をせんさくすることだが,それには条文作成という切実な要求をみたそうとした結果,原理的な検討の不足が目立つように思われる。それよりも,そのような形で表明されている社会的要求を,もっと広い世界的視野において,教育文化史を背景として見ることが,より深い実質的な理解をするために大切であると思う。
 教育目的論は,ある学者にとつては,恒常的普遍的な窮局目的論を意味し,他の学者には,歴史的社会的条件に左右される特殊な目的論と考えられる。前稿において,教育学におけるさまざまな学的態度について述べたが,教育目的についても,世界観的基礎が問われねばならず,さまざまな世界観に対応する教育目的論が可能であると私は考えている。本論は,窮局には,現にわれわれが掲げている教育目的の思想的系譜を明らかにしようとするものである。今日の教育が,特にアメリカの影響を強く受けている事情から,当然,アメリカの教育思潮を辿る必要があるが、同じ動機から,アメリカの教育思潮を追究したものは,甚だ多い。急ぎすぎた概括論になりそうだが,わたくしも、わたくしなりに事態を消化し,問題点を発見し,それらに適当な位置を与えておいて,一層の前進のための青写真にしたい。