島根県出雲地方は古来砂鉄の産地として有名である。我が國製鉄の起源は遠く神代に始まり砂鉄の利用によるもので史実によると出雲地方に其の端を発しているものと言われている。砂鉄の製鉄,冶金に関する実際利用の問題は多くの人によつて研究され一応解決されていると見てよい。筆者は砂鉄が手近に豊富に有り而も其の物理的基本性質が殆ど研究されていないと考へたので之を磁気共鳴吸収の立場から調べてみた。
言うまでもなく砂鉄は各種の鉱物成分(主として磁鉄鉱,チタン鉄鉱,赤鉄鉱)が固溶体単体叉は内部共晶をなして複雑に集合したものであるから測定結果は其等の綜合特性を示し砂鉄特有の性質を表わす。砂鉄の成分中磁鉄鉱,赤鉄鉱等はフェリ磁性体と言はれ,其の磁気発生の機構が従来の強磁性物質と異るので理論的関心の中心となつていることに注意して置こう。叉最近フェライトが高周波磁心として工業的に画期的な分野を開拓しつゝあるが,砂鉄も一種の天然のフェライト(不純物が多くて後述の如く性能は良くない)とも考へられる。筆者は波長約3糎のマイクロ波を使つて数種の砂鉄,其の成分鉱物の粉末,及び某優秀フェライト製品の粉末に就き磁気共鳴吸収の測定を行い比較検討を試みた。