和牛は役用に供せられる点に大なる特質を有し,その体型の力学的構成は役用能力の上に重要なる意義をもつにかかわらず,この方面の研究業績は極めて少い。
馬については,動物力学の概念に立って,M.Lemoigneによって四肢骨の運動軸の測定法が確立され,最近発刊の馬に関する和書にもその測定法の記載を見るが,和牛については,四肢の骨格関節の形態に馬と異る点があるにもかかわらす,これが測定法の研究を欠いている。從って四肢骨に関する長さ・角度等の測定は,運動軸に基礎をおくべきであるにかかわらず,從來の測定はこの根拠に乏しい。いきおい,現行の黒毛和種審査標準においても,その役用能力に関係ある諸規定は,未だ,科学的根拠とその測定法に不充分な憾がある。
仍って,筆者は和牛における四肢骨運動軸に関する測定法を確立して,役用能力審査の科学的根拠を明かにし,ひいて和牛の改良に資する目的をもって,先ず,生体測定にさきだち,解剖材料による骨格について,精確なる測定法の決定と測定を試みた,而して,ここには運動軸の長さについての成績を取纏めた。
本研究は文部省科学研究奨励交付金を受けて行った研究の1部であり,講座主任山根精一教授より研究の便宜を輿えられ,東京大学野村晋一講師より本研究取纏めについての御助言を載き,精肉問屋主,木村吉次郎氏より材料提供についての格別の御懇情を載いた,茲に記して謝意を表したい。