商号は、企業者たる商人が営業上の活動において自己を表彰する名称であり、営業に関する商人の信用と名声は、商号において化現せられる。その意味において、商号制度は本来商人の利益のために存在して財産的価値を帯有する制度であり、したがって、他の商人による不正の侵害に対して法的に保護せらるべき要求をもっている。
商号に対する法的規整を、この企業主体相互間の利益の調整という点に限定してながめれば、問題は先ず第一に、他の商人による不正の侵害に対抗しうる権利、いいかえれば、他人の妨害を受けずに自己の商号を使用する権利だけでなく、他人がそれと同一の商号を登記することを禁じ、さらにその使用を差止め、損害賠償をも請求しうる権利(いわゆる商号専用権)は、およそ商号である以上、そのすべてに対して与えられているものであるかという点であり、この点について、商号専用権と登記との関係が、商法と不正競争防止法との交錯という形をもってあらわれる。ついで第二には、損害賠償責任を生ずべき商号の不正侵害が、民法・不法行為法における権利侵害とどのような関係にたつかという点であり、この点については、不正競業一般に対する民法解釈学の発展が商法ならびに不正競争防止法との相関の姿においてあらわれるのである。