島根大学論集. 人文科学

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島根大学論集. 人文科学 10
1961-03-20 発行

続日本紀の年代学的研究

友田 吉之助
ファイル
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内容記述(抄録等)
歴史的記録は時間の範疇の中で営まれる人間生活の記録であるから、われわれが歴史を正しく理解するためには、記録が時間の目盛の上に、正確に位置づけられていることを基本的条件としなければならない。しかしながら、現存する文献の中には時間的位置の不明なものが多く、また誤って位置づけられているものも少くない。編年体の史籍は時間の経過を記録の原理としたものであるから、われわれが歴史的事件の時間的位置を知るためには、もっとも便利な史体であり、また編纂者も記事を時間の目盛の上に正しく位置づけることに留意して記したはずである。従って編年体史籍は時間の目盛として依存される場合が多く、とくに史料の僅少な古代史においては、比較研究すべき資料が乏しいため、一編の編年体史籍に依存せざるを得ない現状である。
続日本紀は奈良時代を研究するための基本的史料であり、記事も比較的詳細であり、時間的位置づけも、年月日に係けて記されているから、研究者はほとんどこれに依拠しており、渋川春海の日本長暦も、中根元圭の皇和通暦も、また内務省地理局編纂の三正綜覧も、続日本紀に記述されている時代については、これを唯一の資料として著作されたものである。しかしながら、当時行われていた暦法および紀年法は、続紀に記載されているもののみに限定されていたのであろうか。それとも続紀の暦日ないし紀年法とは異なるものが当時行われた疑いはないであろうか。従来このことについては深く追究されていないようであるが、続紀の暦法が当時行われていた唯一の暦法であるか、またその紀年法以外の紀年法が行われたことはないかを究明することは、奈良時代の基礎的研究として、看過できない問題であると言わねばならない。
もっとも続紀の暦日については、最近暦学者によって疑問が提起されているが、その紀年法に対しては、かって疑いを挾んだ学者もなく、無条件に承認されているようである。従って小稿においては、続紀の紀年法に検討を加え、奈良時代において用いられた紀年法を明らかにすることにより、日本書紀および続日本紀の本文批判的研究の手がかりを求めてみたい。