島根大学文理学部紀要. 文学科編

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島根大学文理学部紀要. 文学科編 11
1977-12-27 発行

Georg Trakl小論

Uber Georg Trakls Dichtungen
寺井 俊正
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a008011h015.pdf 1.97 MB ( 限定公開 )
内容記述(抄録等)
Georg Trakl(1887-1914)の独自の詩的世界が開きはじめるのは,習作的詩篇》Sammlung1909《の後,1910年の前後であり,彼の詩的開花は,その後27歳で世を去るまでの僅か4年の歳月を数えるに過ぎない。結実した作品としては,Karl Rockの編纂になる》Die Dichtungen《一巻に収められた百篇あまりの詩篇に尽きている。
そのわずかな詩作においても、その言語表現が著しく変化していることは,多く指摘されている所である。たとえば初期中期に見られるmagischな音楽的言語からの,後期の硬質な文体への移行といったことに,それは顕著に認められるであろう。しかし,こういう詩法の変化が,詩想の深まりは意味しても,その広がりを表わしているのでないことは,注目すべきである。むしろその詩集を繙いてみれば,詩法の変化を越えて,つねに或る同じ内的な調べが,波の音のように単調に聞こえてくるのである。或いは,詩人の歌う詩は,その内的な調べの様々な変奏のようにも聞かれ得る。それは詩人の魂の内奥の声と言ってもいい。言いかえれば,詩法とか詩風の展開にも拘らず,又そこに精神の純化は認められるにせよ,詩人の詩の内的な基音は,異様な程に変化していないのである。この意味で,Traklの詩はすべて,M.HeideggerがそのTrakl論に言うように,》ein einziges Gedicht《――》唯一つの詩《を歌っていると見做すこともできる。
Traklの詩を考える場合,その考察は何よりもこういう》唯一の詩《の調べへと向けられねばならないと思われるが,この小論では少しでもそれに触れることができればと望むに過ぎない。