島根大学文理学部紀要. 文学科編

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島根大学文理学部紀要. 文学科編 11
1977-12-27 発行

Matthew Arnoldの「創造力」、「批評力」論 : 'The Function of Criticism at the Present Time'を中心に

Matthew Arnold's "Creative Power"and "Critical Power"
吉村 昭男
ファイル
a008011h008.pdf 1.75 MB ( 限定公開 )
内容記述(抄録等)
周知のように,アーノルドは詩の中で,あるべき詩あるいは詩人に関する理想に,実際の体験が期待通りには合致しえないという苦悩の衷情を示し,その理想については,後に批評家として客観的・超越的な立場から繰返してこれを明らかにしている。
詩人から批評家に至るアーノルドの変身にともなって,詩人はその視線――「牢獄」にも等しい現実世界の中で詩人「囚人」の目は,専らオーベルマン,エムペドクレスら反現実的理想主義者〔逃避者〕に集中していた――を一転させ,遥かかなたの平和にみちた,あのゲーテ的理想境に方向を変える。と同時に,関心を外界に向けた彼は,未だにその中で苦悩している同胞に対して,本質的なあるべき「世界の理念」伝達への使命観にその心を燃やすことになる。このように,批評家アーノルドの出現,あるいは詩人アーノルドの消滅を,われわれはその姿勢と心情との両面からとらえることができるのである。ではこの現象は一体どのような動機と理由とによって生じたのであろうか。
改めて言うまでもなく,アーノルドの生涯は彼自身の手によって演出されていった一つのドラマである。すなわち,まず詩人は自ら受難者として「近代生活の奇病」に苦しんだ出演者――タレント――であり,つついて彼は演出家〔批評家〕の立場から,病める世界の登場者たちに対して,現代を生きるべき最良の対症療法を説く。
小論では「演出家のタレント論」――批評家アーノルドの創造力説―ーを考察することにより,問題解明の端緒をつかんでみたいと思う。