本研究は、20 代から50 代の島根県のI・U ターン者に対して行ったインタビュー調査を基に、スローライフの定義を考察する。これまでスローライフは、地方人口減少の政策に関連されて、「自給自足・農業」のイメージができてしまった。しかし実践者たちは、必ずしもそれらを求めてライフスタイルに対する意識が変化し、移住したわけでもない。本研究は、政府から見るスローライフと実践者から見るスローライフに乖離があるか確かめ、また実践者なりのスローライフの特徴を見出す。実践者によるスローライフは資本主義社会から脱出する方法として、「自分で選択している心地よさ」を重視しているライフスタイルである。その特徴は、スローライフの原点であるスローフード運動と同様の意識を持つこと、古来の日本文化に似ていることを理由にして実践していることである。他にも地域コミュニティの価値観を持つこと、また現代社会に疲れを感じ、今までと異なる場所から日本社会を相対的に見つめなおし、みずからのライフスタイルに対する意識に変化が起きたことである。しかしかれらは、自分なりのスローライフ、いわゆる「心地よさにこだわって自分で選択している」のようなライフスタイルを実践していても、資本主義から完全に脱出することは不可能だと理解している。スローライフと現代社会の在り方、これらの矛盾に耐えながら実践している。つまり、場所や方法を一定の形に定めることではなく、自分のライフステージや資本主義社会との距離を自分なりの心地よさを重視しながらで選択し、実践することがスローライフだと明らかにする。