本研究の目的は、総合的な探究の時間にかかわる教師の信念変化と学校組織開発のプロセスに関して、「修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ」を用いて生成した理論の有効性を高めるために、その理論を学校現場に応用し、その結果を再理論化することである。調査は分析対象校である県立高校で総合的な探究の時間に関わる2年学年団の教員を対象に実施し、M-GTAで分析した。分析の結果生成された教師の信念変化のプロセスから3つのことが明らかになった。1つ目は教師の信念変化がミドルリーダーによるマネジメントを起点に生じていることである。研究協力者9人全員が生徒主体の学びを意識して取り組んでおり、ミドルリーダーの働きかけが教師集団の生徒への関りに影響を与えていた。2つ目は生徒への関わりの意識、教師の気づき、モチベーションの高まりが循環構造になっていることである。生徒主体の学びを意識して総探に取り組んだ結果、生徒の多様な資質能力の発揮を自覚し、授業へのモチベーションを高めていく構造が確認された。3つ目は、ミドルリーダーとの関りの濃度が教師の信念変化に影響を与えていることである。担任は4人全員に信念の変化がみられるが、副担任で信念の変化がみられるのはミドルリーダーと日常的に対話をしていた1人であった。
本研究には、3つの意義が認められる。第一に、教師の信念変化のプロセスを組織開発の視点から明らかにしたことである。第二に、教師の信念変化のプロセスにおけるミドルリーダーの役割の重要性を指摘したことである。一方でその「マネジメントの難しさ」も明らかになった。ミドルのマネジメントが十分に及ばない教員の生徒観や指導観の更新は教師個人がどれだけミドルリーダーと対話できるかに左右される結果となった。このことは翻って教師の信念変化に対するミドルリーダーによるマネジメントの重要性を示していると考えられる。第三に、研究方法の観点で、M-GTAの最適化研究に取り組んだことである。これは、生成した理論の実践的活用が課題となっているM-GTAに対しての方法論的な貢献である。