本稿の目的は, 主体の有する価値観が新たな価値観へと変容する要因を追究することである. そこで, 本研究では,中島(1981) が挙げる数学の特性の基盤となる3つの観点のうち簡潔に着目することから, 簡潔における中島の分類(表現, 作業, 思考) を視点とし, 小学6年生の立体の体積の学習における実験授業を計画, 実施した. 調査の分析結果からは, 分析対象とした二名の児童が, それぞれの学びのなかで価値観を変容させていき, 最終的には両者とも【簡潔である】といった価値観へと変容する様子が確認された. また, そこでの【簡潔である】といった価値観への変容の要因としては,【人によくわかる】といった価値観を有する児童の簡潔性への発言が影響を与えていた点が確認された. 学習指導への示唆として, [1] 主体の【簡潔である】といった価値観への変容には“作業上の簡潔性”と“思考上の簡潔性”,“表現上の簡潔性”と“作業上の簡潔性”が重なり合うよう価値づけを行うことが重要であること, [2] 【人によくわかる】といった価値観を有する児童との相互作用が主体の【簡潔である】といった価値観の変容を促進することの二点を指摘した.