大学生の意欲の低下として、無気力と無力感を同時に取り上げ、それぞれ「価値の喪失」と「期待の欠如」として期待×価値理論の枠組みから位置づけ、検証を行った。大学生が捉えている無気力を調べたところ、「目標喪失」「快感情の欠如」「行動停滞」「身体的不調」の4因子がみられた。これら無気力の因子は、「価値の喪失」を認知、感情、行動、身体の側面からとらえたものであり、期待×価値理論に基づく「価値の喪失」としての無気力という仮説を支持するものである。また、無気力と無力感(絶望感)の2つは、領域別(授業、学業、大学)の意欲低下に対し独立の寄与を示し、同じ意欲の低下であっても、独自の性質を持つことが検証された。文化的自己観との関係を調べたところ、その一つ「相互協調性」は無気力の4因子のすべてと関係していたが、無力感とは全く関係はみられず、両者の性質の差異と無気力の文化的バイアスを示唆する結果であった。「相互独立性」は無気力の4因子に加え、無力感に対して負の関係がみられた。「相互独立性」は動機づけ全般に強力な要因としてはたらいている。無気力の4因子に基づいてクラスター分析をしたところ、4因子とも高いタイプが2割みられ、「目標喪失」のみが高いタイプや「身体的不調」と「行動停滞」が高いタイプなど、多様な無気力の類型が確認された。