現今の農業経営をみるに,水田には水稲という比較的収益性が高く,しかも安定した作物があるのに対し,畑地においては大量に生産しても価格的変動が少なく,しかも作柄の安定的な農作物は少ない。加うるに畑作地帯における農家は,主食の購入その他のために,より多くの現金収入を必要とするので,ここに畑地の高度利用が必要となってくるのであって.,この最も主要な解決方法として,集約的な収益性の高い作物を導入するか,土地生産物の加工によってその収益を高めることが問題となる。ところで現在土地生産物の加工をも農家内でおこないえる主なものに,桑葉・飼料を通じての養蚕経営と酪農経営がある。しかるに養蚕業は繭価格が毎年多少変動するが,長期的な軟化傾向のため,生産コストの引下げをせまられており,一方酪農もまた乳価の頭打ちおよび購入飼料の値上りのため,.何らかの打開策をこうじなければならなくなってきている。この両者を共に農業経営に導入することは,土地の立体的利用と蚕糞蚕沙の活用という点ですぐれているといわれているが,養蚕と酪農のつながりを経営的・総合的に研究された業績は非常に少ない。
本研究は島根県で最も養蚕酪農の盛んな安来市の赤江と荒島両地区における農業経営の実態調査を基にして,両者の補完・補合・競合関係をしらべ,さらに経営要素の配分,収益性などの問題について言及し,養蚕酪農経営の有利性とその限界を明らかにしたものである。