走競技において良い記録を出すためには,ランニング技術のマスターと共に,体力面の優秀性が重要な要因となる。
体力の概念と構成要素については研究者により見解に相違があるが,福田は体力を防衛体力と行動体力に分類し,猪飼は防衛体力に生存性,行動体カに適応性ということばを適用し,行動体力を作業能力としてとらえている。本研究では,行動体力のうち走記録に大きく影響すると考えられる身体的要素をとりあげた。これは形態,筋カ,瞬発力,敏捷性,平衡性,柔軟性,持久性に要因分類される。
ところで,ある距離を全力で疾走する場合,これらの体カ要因のいずれかがタイムを決定する限界因子として作用する。中距離走では脚筋・心臓・呼吸機能・精神機能の持久性が限界因子として考えられ,短距離走では筋の収縮力の速さとかパワーが重大な意義を持つと報告されている。このように走距離によって特に必要とされる体力要因が異なる。
そこで,疾走能力を体力面から探求する目的で疾走タイムと体力要因の関係について検討がなされてきている。中距離走に関しては呼吸・循環機能の側面からの研究が多く,最大酸素接種量や<PWC>^^^<170>,無酸素的作業閾値,無酸素的能力,血中乳酸値,呼吸・循環機能を中心としたバッテリなどとの関係が検討されている。短距離走では,酸素負債,筋力,パワーなどとの関係が検討されている。筆者等は既報において短・中・長距離走それぞれにおいて中枢となる体カ要素の検討を行った、しかし,これらはいずれも単相関,単回帰にもとずいて検討がなされたものである。
ところで,複数個の体力要因から疾走能力を推定する目的で重回帰分析を利用しようとする場合,体力要因間に多重共線性が存在するとみなされるため,走タイムを従属変数,体カ要因を独立変数とする重回帰分析の結果が不安定であることが予想される。
本研究では体力要因のうち,筋カ・瞬発力・敏捷性・筋持久力・形態に該当する12項目の測定を行い,主成分分析を施した。そして,これらの項目がどのような互いに無相関な総合特性値に要約されるかを調べた。
次に,因子得点を独立変数,走タイムを従属変数とする重回帰分析を行い,走記録と抽出された因子との関係について検討した。