山陰地域研究

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山陰地域研究 10
1994-03 発行

農産物無人市の展開と意義 : 島根県石見町の井原西区農業生産組合の事例

A Study on the No Man's Market of Agricultural Products : A Case Study in Iwami-cho, Shimane Pretecture
渡部 晴基
柳楽 紀美子
曽田 美保子
ファイル
e0010010s010.pdf 2.06 MB ( 限定公開 )
内容記述(抄録等)
市場外流通の一形態としての「無人市」は,消費者の食料に対する安全性志向の高まりや,「域産域消」による地域農業と地域社会を統合して地域の農業と地域住民の健康(福祉)を守る連動,あるいは,地域に賦存する労働力(農山村過疎地域においては中高年齢労働力)の有効利用による所得化等の諸要因に併せて,道路網の整備とモータリゼーションの普及によって,近年,急速に展開してきている.
 元来.無人市は,農家の高齢者や婦人が片手間に作った生活農業(自給農業)の延長線上の余剰農産物等を販売することによって,なにがしかの収入を得るための施設として位置付けられていた.そして,無人市に出荷される農産物は,農家の家族員の食料目的に栽培されていることから安全性が重視され,農薬等の投入については極力控え目にした栽培方式によって生産されている.見掛けは悪いが,新鮮で,安全な農産物である.
 近年.こうした無人市が,消費者の本物・安全性志向の高まりの中で,各地で展開し,その中の一部の無人市においては,無人市をとおした活動が,地域の中高年・婦人労働力の組織的対応による供給農産物の生産による地域農業の展開,地域住民へ安全食料の提供,無人市を核とした地域づくりの担い手等の役割を発揮しつつ.取り扱い金額の増大による農業所得増大効果をあげている.農産物の流通の主流は市場流通であり.無人市を通じての農産物の流通量はわずかである.しかし,このような新しい展開をみせている無人市は,単なる農産物の市場外流通の場の拡大とみるだけでなく,新しい視点として,地域農業と地域社会を統合した「地域社会農業」の結合軸(活動)として積極的に位置付けて考えてみる必要があるのではなかろうか.
 農山村過疎地域においては,地域の産業や社会の活性化を図るための担い手として,中高年者や婦人に期待されているところが大きい.このような地域に賦存している中高年・婦人労働力に適応した農業は,大規模専門経営による少品目・大量生産方式ではなくて,小規模による多品目・少量生産方式である.そして,その流通形態も,市場流通よりも市場外流通に依存するところが大であると考えられる.
 本稿の課題は,以上のような観点から,新しい展開をしている無人市=島根県邑智郡石見町井原西区農業生産組合の運営する無人市=を対象に実体調査をおこない,それを通して,無人市が「地域社会農業」に果たす役割・意義を明らかにすることである.実態調査は,地域住民の組織的活動による地域農業生産の実態調査,利用者のアンケートによる意向調査,無人市の運営と収入実態,地域リーダーの聞き取り調査を行なう.