山陰地域研究

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山陰地域研究 10
1994-03 発行

コンティンジェント評価法による農村景観の経済的価値の計測

Measuring of Economic Value of Rural Landscape by Contingent Valuation Method
大森 賢一
藤居 良夫
ファイル
e0010010s008.pdf 1.27 MB ( 限定公開 )
内容記述(抄録等)
農林業及び農山村地域を源泉とする外部経済についての議論はほぼ定着し,一定程度のコンセンサスの形成が見られる様になった.近年は,そこから進んで,外部経済効果の具体的・定量的研究の段階に入ったと言える.
 研究例としては,ヘドニック法による西澤・吉田・加藤(1991),浦出・浅野・熊谷(1992),コンティンジェント評価法による矢部(1992a.1992b),藤本・高木・桜井(1993),新保・浅野(1993)などを挙げることが出来る.西澤らは全国を対象に水田及び普通畑のアメニティ創出の経済評価を,浦出らは近畿2府4県を対象に経営耕地・森林のアメニティ創出の経済評価を,矢部は長野県八坂村を対象に農山村の自然環境保全価値の経済評価を,藤本らは奈良県大和高田市・香芝市を対象に水田転作作物(コスモス)の景観形成の経済評価を,新保らは和歌山県中山間地域を対象に農山村の国土保全・農山村文化維持の経済評価をそれぞれ行っている.
 小稿では,上述の先行研究を踏まえ,農林業及び農山村地域の持つ外部経済効果のうち,農村景観のアメニティ供給効果を貨幣夕一ムで計測することに課題を設定する.方法としてはコンティンジェント評価法(Contingent Valuation Method,以下CVM)を採用する.CVMには,1回付け値CVM(open-ended CVM),反復付け値CVM(sequential bids CVM),2肢選択CVM(dichotomouschoice/c1osed-ended/CVM)など幾つかのヴァリェーションが存在する.前出,矢部(1992a,1992b)では2肢選択CVMが,藤本・他(1993),新保・他(1993)では1回付け値CVMが採用されている.小稿では,「財・サービスの1つの価格に対し,買う/買わないの判断を下す通常の市場における購買行動に近いかたち」で自然な実験が可能であり,かつ調査コストも比較的安価ですみ,回答のバイアスも少ないとされている2肢選択CVMを採用する.
 なお,2肢選択CVMは上述の様にCVMの中では比較的問題の少ない技法であるが,それでも各CVMの技法に共通する諸問題が存在する.代表的なものとして,戦略的バイアス,情報バイアス,手段バイアスの3つのバイアスの問題がある.戦略的バイアスは「回答者が自己の回答を戦略的に操作することによって,質問を基礎にして立案される政策を誘導しようとするために生じる」バイアス,情報バイアスは「回答者が回答時に持っている情報の質と量(理解度)によって同じ回答者でも回答に散らばりが生じる」バイアス,手段バイアスは「面接者の提示する仮想条件によって生じる」バイアスである.小稿では特に,特定の農村景観ではなく,「伝統的な農村景観」一般を評価の対象とするが,「伝統的な農村景観」という言葉から想起されるイメージは被験者によって異なりうる.更に「伝統的な農村景観」の状態変化に関する認識も被験者によって異なったものとなる可能性があるため,情報バイアスの問題がとりわけ顕在化する.この点で,小稿の計測は,将来の本格的な研究のための試論的段階に留まるものである.