本稿の目的は「地域」の意味を考察することである。この「地域」という概念が多義的であることはこれまでにも議論されてきた。文化人類学の用語を用いれば「地縁集団」に近く、同質性・均質性をその特徴としている。だが都市部における「地域」は、これとはまた異なった様相を呈する。それは匿名的な集団で、成員たちに共通する価値観はない。むしろ見知らぬ者どうしが問題解決的な目的に沿って集合した集団であるともいえる。これらの特徴を齋藤(2000)の議論に沿って整理すれば、前者を「共同体」、後者を「公共圏」と言い換えることができるだろう。そして「地域」をどのように捉えるにせよ、こうした集団から排除される「他者」がいるのもまた事実である。本稿では、刑余者の方々に生活史のインタビューを試みた。彼らは刑期を終え、それまで何の紐帯もない「地域」でいきなり暮らすことを余儀なくされる。また「元犯罪者」というスティグマも抱えて生活しなければならない。それゆえ彼らの多くは地域から排除されており、そのなかでうまく暮らせていないという感情を抱いている。家族とは音信不通で、友人もおらず、孤独を訴える者も少なくない。つまり、その疎外感は「親密圏」が構築できないことに存しているともいえる。こうした一連の考察を踏まえ、「地域」を「社会的なもの(the social)」としてだけではなく、私的・個人的な親密圏という観点から考察する必要性について指摘した。