島根大学論集. 人文科学

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島根大学論集. 人文科学 9
1959-02-28 発行

V.ウルフ「幕間」の表現

飯塚 俊夫
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内容記述(抄録等)
1941年に出版されたV.ウルフの遺作「幕間」(Between the Acts)は常に新しく試みられてきた実験の綜合であり、解放的気分のもとにのびのびと創作意欲の満足を求ゆて書かれたものでウルフの特色を最もよく示している作品である。ウルフは「The Pargitors の後に純粋の詩の姿がかすかに現われて私を招いているのを正に見ることが出来る。」(A Writer's Diary p.195)と「幕間」の予想を述べているが「歳月」(The Years)でウルフは「想像」と「事実」を結合することによつて「波」(The Waves)に於ける型を破ろうとした。そして「歳月」の次に来るべき小説について「心理と肉体に於ける新しい結合――寧ろ絵画のような。これが「歳月」の後、次の小説となるだろう。」(Ibid.,p.249)と言つている。叉次の小説は対話であり、詩であり、散文であること、「波」の場合のようにそれが重い負担にならないこと、当時執筆中のロヂャー伝から気分を解放するために気の向くままにして、計画を立てないことなど述べている。併し具体化した「幕間」の構想が日記に次のように書かれている。「Poyntzet Hallではどうだろう。中心。現実のささやかな、不条理な、生々した気分と連関して味わわれる凡ゆる文学。そして何んでも私の頭に入つてくるもの。、、、我々、凡ゆる人生、凡ゆる芸術、凡ゆる寄せ集め――取りとめのない、気まぐれの、併しともかくも統一された全体――私の心の現在の状態か。そして英国の田舎。景色のよい古い家――子守が歩くテラス――通りすきる人々――強烈から単調そして事実への絶えざる多様と変化――そして記録――」(Ibid.,p.289)叉一つの作品に凡ゆる種類の'form'を用いることが出来るという「歳月」に於て得られた体験が「幕間」に生かされている。このことについて「次のものは詩、現実、喜劇、劇、物語、心理を凡て一つにしたものとなろう。」(Ibid.,p.222)と言つている。このように種々な新しい表現形式を用いて作られたこの作品は、それらの新しい要素が構成分子となつて、これ迄にない純粋な一つの流れ、抒情詩的雰囲気を生み出している。それではこのような抒情性はどのような表現をとつているだろうか。