島根大学論集. 人文科学

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島根大学論集. 人文科学 9
1959-02-28 発行

英語聖書の研究(その三) : ヨハネ伝第二章四節などに関する疑問

荒木 甚三郎
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内容記述(抄録等)
1611年の英語欽定訳聖書(The Authorized Version)は文学的作品としても実に立派な作品であり、総体として非常に価値の高いものであることは申すまでもないが、一般人には十分に理解出来ぬ箇所が処々にある。ヨハネ伝第二章四節の母に対するイエスの言葉の訳文Woman,what have I to do with thee?「女よ、我れ汝と何の関係(かかわり)あらんや」などは其の一例である。聖書の原典の中にはWhat to me and to thee?と遂語訳される文及びこれと同類の文が合計20(旧約14、新約6)箇所にあり、すべてが欽定訳ではWhat have I to do with thee?の型の文に統一して訳されており、改訂訳でも此の型の訳文が採用されている。しかし多くの場合、これによつて原典の意味が果して正確に伝えられるか否か疑わしいばかりでなく、時には具体的に如何なる意味であるかを推察するのに苦しむ場合もある。後に掲げるMoffattの訳(初版は1926年)Powis SmithとGoodspeed の訳(初版は1935年)などを見てもわかる様に、欽定訳と異る意味の訳文が屡々見出されるという事実から推しても、専門家の間に異説があることが窺われる。
言語の問題を全く論理だけで解決しようとすることの誤りであることは申す迄もないが尠くとも外国語の場合は或る表現の一般的な論理的意味を一応知つておき、それが実際に当てはまるか否かを検討して、正しい意味をつかむ方法を取るのが望ましい方法と思われる。
筆者は原典の語法を検討し、前後の文脈や事情を考え合わせて、原典正解への端緒を発見しようと試みた。大方の諸賢の御批判と御教示を賜われば幸いである。