クライストのノヴェレ『拾い子』は,1811年「物語集第二巻」に収められ,はじめて公刊された。彼のほとんどのノヴェレは,作品集に収められる前に雑誌などにおいて発表されている。そして当該作品に関する記録がないため,この作品の成立時期は判然としていない。このような成立事情は,偶然とは思われない程,作品の内容と共通しているような印象を与える。
ところで当該作品において,三つのモチーフが叙述されている。第一のモチーフは,拾い子ニコロの義父ピアキーに対する忘恩であり,第二のモチーフはニコロとコリノとの偶然的酷似性であり,第三のモチーフは,ピアキーのニコロに対する復讐である。第一のモチーフと第三のモチーフとは表裏一体の関係であることは明らかである。第二のモチーフは,アナグラムCOLIN0−NICOLOを導入し,この作品をクライマックスヘ導く重要なモチーフである。作品の主人公は,題名によると,ニコロのはずであるが,ピアキーもエルヴィーレも主人公の如き観を呈している。そこでこの三人を関連付ける媒体は何であろうかという疑問が生じてくる。義理の関係とは言え,三人は親子であり,家族である。この三人は,相互に孤立している。この三人をつなぐものは家族としての絆ではなく,むしろ、”Ubel”であるように筆者には思われる。従って当該小論においては,この三人の性格を規定し,三つのモチーフを検討しつつ,この三人と三つのモチーフをつなぐ媒体である”Ubel”について考察してみたい。