島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学

ダウンロード数 : ?
島根大学教育学部紀要. 人文・社会科学 29
1995-12 発行

夫は妻の育児感情をどう認識しているか(第3報) : 妻のゆとりと育児感情

A Study of Feelings and Attitudes of a Married Couple in Childcare(Part 3) : Effect of Comfortable Life of Mothers
猪野 郁子
久野 美和子
松本 律子
ファイル
内容記述(抄録等)
1 はじめに
 現在の少子化傾向は,子どもの養育場面にさまざまな問題を投げかけている。その一つが,母親達の育児による不安や負担感が具体的な育児に及ぼす影響であろう。
 育児は女性(母親)のみが行うものではなく,母親と父親が共同して行うものであるという認識が浸透し,「母性」も女性に生まれつき備わったものではなく,育てられるものとの認識もなされつつあるが,それでも男性のみならず女性にも「母性崇拝意識」は根強く残っている。それ故,母親になった女性は,わが子をうまく育てねばならないという強迫観念に捕らわれ,ますます育児不安や悩みを大きくしている。さらに,家族構成貝の減少と地域を含めた社会の人間関係の希薄化は,こうした母親達に援助の手を差し伸べるよりも「よい子」に育てるようにと迫いつめている。
 母親達が持つ育児不安や育児負担感について,月齢によってどの様に異なるのか,どの様な支援があれば育児不安は小さくなるのか等研究がなされている。また,国はエンジェルフランを策定し,仕事を持っているとかいないとかに関わらず育児を行っている母親たちへの育児支援の方法を打ち出している。
 猪野は,育児において夫(父親)の役割を明らかにすることを目的に,妻のこれら育児にまつわる負の感情を夫がどう認識しているか,負の感情の妻と夫の認識の違いおよび夫の受けとめ方について明らかにしてきた。また,妻の育児の負の感情と育児の悩みとがどの様な関係にあるか考察してきた6)。そこでは,夫は妻の育児による疲労をよく認識していたが,不安や負担感についての認識は低く妻との間にずれがみられたこと。また,妻のこれらの感情を夫達は「気が向けば相談に乗ったり,一緒に考える」方向で受け止めたとしているのに対して,妻は夫にこれらの感情を訴えたときに夫は「不機嫌になった」と認識していたこと。夫に自分の感情を理解してもらっていないと認識している妻の育児疲労感や負担感が強いこと。育児の悩みの強い妻は育児の負の感情も強いこと等が明らかになった。
 今回は,妻の心(精神)と時間のゆとりが育児に関係するのではないかと仮定し,妻の生活のゆとりとの関わりから妻の育児感情を明らかにすることを目的とした。