昭和58年,中央教育課程審議会は,二十一世紀の教育を考えて次のような経過報告をした。
「今後特に重要視しなければならない視点としては自己教育力の育成がとりあげられる。自己教育力の核心は主体的に学ぼうとする意志,態度,能力の形成と確立であり,生徒に『学習への意欲」と「学習の仕方』を習得させることをめざしている。」
この経過報告にもあるように,今後ますます教科教育における情意面の研究はさかんになっていくであろう。
数学教育のねらうものは,日常の事象と数学の世界のかかわり方を通して,あるいは,数学の世界での思考,操作なとを通して「数学的考え方」を養うのである。
この「数学的考え方」をどのように働かすかの方向を規定し,その発動にエネルギーを供給するものが「数学に対する態度」である。
これら「数学的考え方」・「数学に対する態度」の形成と確立を可能にする土台となるものが,「数学に対する自己概念」であり,これらの形成と確立を前進させる力を支えるものが「数学学習におけるやる気」である。
図学は,図法幾何学の略称であって,主として三次元の空間図形を初等幾何学や射影幾何学などの諸定理を理論的根拠とし,それを二次元の平面上にいかに適切に図表示するかという客観的方法やその図形の幾何学的性質を考究する学問である。したがって図学と幾何学とは密接な関連がある。
図学は,理工系大学・学部,工業高専における専門科目として開講されて,図学教育はおこなわれている。
図学教育の目標は,図学的な知識・担能を基礎として各専門分野に応用させる能力・態度の養成にあることはもちろんであるが,さらに「空間的・立体的観念の養成,ち密さ及び創造的思考力の基礎を養うこと」も大きな目標の一つである。
この目標は,数学教育における図形教育の目標と類似している。
図形教育の目標を,中学校数学科の「図形領域」の目標からみてみると次のようになる。
(1)平面図形及び空間図形についての基礎的な概念や性質の理解を深め,それらを応用する能力を伸ばす。
(2)図形に対する直観的な見方や考え方を伸ばすとともに,図形の性質の考察における数学的な推論の方法について理解させ,論理的な思考力を伸ばす。
以上,述べたように図学教育は,数学教育の中の図形教育と密接な関連がある。
このように認知面での目標は,図学教育および数学教育(図形教育)において類似している。数学学習における情意的特性と図学学習における情意的特性との間に関連があるか否かは興味深い問題である。
伊藤(1979)は,「Thurstone 型尺度,Likert 型尺度,きらい−すきの7点尺度による小学校教員志望学生の算数に対する態度について」の論文以来現在までの13年間,算数・数学学習における態度・不安・やる気・自己概念などに関する研究を試みてきている。
大国(1975)は,「技術科の教授=学習内容に関する研究(III)」の論文以来今日まで,図学教育,技術教育における情意面の研究を試みてきている。
今後,大國・伊藤の二者の共同で「数学教育および図学教育における情意的特性の比較研究」を試みることにする。
本研究はその第一報で,高専生の数学および図学に対する態度の研究を試みる。