島根大学農学部研究報告

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島根大学農学部研究報告 4
1970-12-15 発行

地主的林業経営の形成と展開 : 兵庫県多可郡加美町における一事例

Development and Formation of Landowner's Forestry
井口 隆史
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内容記述(抄録等)
 本論文の課題は,資本主義発展に対応する林業経営の一歴史的形態としての地主的林業経営の形成と展開の過程を明らかにすることである.
 地主的林業経営の主体である山林地主の系譜をたどれば,その主流の一つに耕地地主に系譜を持つものがある.
 このような山林地主の多くは,藩制期の村役人層であり,前期的高利貸的活動によって耕地や山林を集積している.そして,地主手作耕地経営が不利になってくる明治中~後期までは,林業経営にはほとんど目を向けていなかった.手作りを止め寄生地主化することによって初めて,林業経営の有利性に注目しだすのである.彼らの多くは農地改革まで耕地地主を兼ね,その経済は,農地および林地の土地所有に基づく収益という二本の柱によって支えられていた.彼らは農地改革以前,所有耕地をほとんどすべて小作に出しており,その林業経営は主として耕地における地主・小作関係を媒介とする有利な労働力調達機構と,その小作料を原資とする育林投資によって行なわれていたのである.ところが,農地改革によってそのような直接的労働力調達機構は消滅し,さらに彼らの経済を支える一方の柱であった耕地からの小作料収益も得られなくなってしまった.その結果,農地改革以後は,賃労働を雇用せざるをえなくなり,また林業のみで経済を支えなければならなくなったのである.この時初めて,彼らの林業経営は,何らかの媒介機構によって成立するのではなく,それ自体の経営採算を追られる
ようになった.こうして,経営を取り巻く経済諸条件の変化による影響を,林業経営が直接受けるようになったのである.
 本論文では,このような耕地地主に系譜を持つ地主による,地主的林業経営について,その形成・展開・解体・転換のメカニズムを,兵庫県多可郡加美町における山林地主−山口家の場合を例にとって明らかにしようとした.