Memoirs of the Faculty of Education. Literature and Social science

number of downloads : ?
Memoirs of the Faculty of Education. Literature and Social science 28
1994-12-25 発行

家族の中の高齢者(1) : 高齢者の家族観について

The Older Generation as a Member of the Family : The Older Generation Take a View of the Family and the Family System
Ino, Ikuko
Sutou, Noriko
File
Description
 家族は近年大きく変化した。一つには,家族の構成人数である。1965年以降に4人を切ってからは減少傾向をたどり1992年には3.04人にまでなっている。このことは3世代同居世帯よりも夫婦と子どもあるいは単親と子どもの核家族世帯と単身(単独卿世帯が増加したことと関連している。二つには,家族構成員の結びつきが希薄になったことである。社会全体が人と人との結びつきを希薄にしているが,家族においても例外ではなく個々バラバラに生活を営んでいる。小此木啓吾はこうした現象を「ホテル家族」と称し,時には「私たちは家族よ」と確かめ合うdoingが必要になってきていると述べている。また,夫婦の結びつきも,基盤とする「愛」がなくなれば解消に向かうのはもちろん,些細な障害でも壊れ易くなっている。このため,離婚率は結婚率の減少と対照的に増加しているのが現状である。三つ目は,人々の価値観や生活スタイルの多様化である。夫婦別姓非嫡出了への財産相続,結婚という形態をとらない共同生活(同棲・共棲)等々さまざまな家族に関わる現象の普遍化とともに生殖家族を作ることを否定する若者も急増している。これらのことは,出生率の低下(少子化)と高齢者の介護看護の上に大きな問題を投げかけていることも事実である。
 また,新民法が制定されて約50年,われわれの意識の中から完全に「家」意識がなくなったかといえば,必ずしもそうとは言い切れない。まだまだ「家」のしがらみに縛られている人は多い。そのことが結婚をむずかしくし,結婚を望みながら結婚出来ない状況を生み出している。そして,高齢者もまた教え込まれた儒教思想と目まぐるしく変化した現状との狭間で「なるようにしかならない」心境で日々生活しているのが実状である。
 島根県は全国一の高齢県であり,また全国平均に比べて複合家族(拡大家族)が高い割合で存在する(SI。これには,流出はあっても流入が少ない島根県では意識の変革が緩やかになされていることが関係しているのであろう。しかし,世の中の流れは早い。このままでは世代間の意識のギャップが大きくなる危険性が考えられ,せっかく同居していてもそれは物理的に同じ屋根の下に生活していると言うに過ぎなくなろう。島根県の高齢者,中でも子ども家族と同居の高齢者に自殺者がみられることは,このことを物語っていよう。
 情報網の発達で知識として時代を認識していても,それが意識としてどの程度浸透しているのであろうか。つまり,高齢者が日常生活や学校教育で培われた「家」意識や家族制度についての意識はどの程度残っているのか。住む地域や年齢,性別,家族構成によって違いがみられるのであろうか。
 出生数が死亡数を下回るという自然減の事態の中で若い世代と高齢者の世代が共存して行くためには,さまざまな事象に対する意識の共有が必要になろう。また,住宅事情や高齢者介護の上から,今後3~4世代の同居の必要性が高まるのではないかと考える。
 その際,お互いを理解しながら家庭を経営して行くために,どの様な意識が基盤にあるか知っておく必要があると考える。
 こうした問題意識から今回は高齢者の「家」意識や家族観に焦点を当てて調査を実施したので報告する。