われわれは,前報"において,小学生が両親をどの様な役割を果たす人間とみているか報告した。母親の就労が一般的になりつつある現代,父親の役割が家庭生活や子育てにもう少し発揮されているのではないかと仮定していたが,子どもたちには父親は従前の家族の中心的存在として捉えられ,依然として家事育児への参加は低く,母親は職業も家庭もと二重の仕事をこなしておりこのことに子どもたちは何等疑問をもってはいなかった。
T.パーソンズの伝統的な性別役割観に根ざす父親=道具的役割,母親=表出的役割という考え方は,確かに崩れてL、る。総理府や各県の性別役割分業に関する統計は,特に女性の否定派が増えていることを物語っていることからもうかがえる。
また,こうした性別役割は,ナンシー・チョドロウを引用して井上輝子は「子育てを女がするから再生産される」のだとしている13)ように,母親の養育態度の影響が大きいことを示唆している。しかし,養育態度にモデルとしての両親の言動も加わって将来父親や母親になったときの行動や役割モデルが形成されるのではなかろうか。
NHK放送世論調査所の父親調査によると、昭和40年代後半から50年代にかけての青年は優しく友達のような父親をイメージし,仲間型の父親を望んでいる。当時の青年たちが小学生の頃は,高度経済成長期であり父親たちは大変忙しい生活をしていた。子どもとの接触機会がほとんど持てなかった時期でもある。
当時の父親たちは,家父長制での父親をモデルとして育ちながら民主主義での父親像を作らねばならなかった。しかし,日本の経済復興のために家族より会社への忠誠を優先し新しい父親像を作るための精神的・時間的余裕が持てないことを理由に父親像を作ってこなかったのが実状である。
このことは,家庭の教育力の低下とつながっている。加えて,女性の自立はめざましく,固定的な性別役割意識を打破しようとする運動は先に述べたように少しずつ成果を上げつつある。しかし残念ながら,子育てになかなか父親が参加できないことである。それは,労働形態等労働状況に起因することと父親として子育てにどう関わるか,父親役割として経済的要素だけが明確であって他に何を成すべきかが学べていないことが関係している。
父親の家庭回帰を求める声は,最近とみに高くなっている。子どもたちのさまざまな問題は母親だけの力では解決することが出来ず父親を含めた家族で当たることが要求される場合が多い。
父親も母親も職業生活をするようになっている現在,パーソンズのいう道具的役割と表出的役割をどう分け合うのか,いや,新しい役割を作るのか,「心理学的両性性」にいわれるように,その場にいる者がその場にあった役割を果たすのか。男女共同社会での父親役割母親役割を早急に作ることが要求されている。
そこで,本報では近い将来親になるであろう大学生が自分の父親をどう捉えており,それが将来なりたいとする父親像に関係しているかどうかをみることによって,モデルとしての役割と将来の父親像を探ろうとした。