コミュニケーションの場面での伝達能力(Communicative competence)の重要性が言語教育においても認識され,学習者に提示される言語材料も,従来からの文法のルール(rules of grammar)だけでなく,言語使用のルール(rules of language use)にも配慮したものとなってきている。具体的には言語の持っている機能(function)を重視し,それを中心にした教材が作成されているわけで,“educational linguistics”の立場からは,個々の機能を持つ言語表現を教材化する上で役立つような情報を提供していく必要がある(Candlin 1976,Spolsky 1978)。
日本人がアメリカ人との social interaction において直面する困難のひとつとして,謝罪(apology)に関わる問題があることはよく指摘されるが,例えば日本で使用される検定教科書(高等学校外国語科用)にも「おわびとその受け方」として次のような表現が提示されている。
1. I'm terribly [awfully] sorry I can't go with you.
2. Pardon me for asking such a personal question.
3. I beg your pardon.
4. Please excuse me [my coming late].
5. I must apologize for what I said.
6. Please forgive me.
7. It's nothing at all.
8. It doesn't matter at all.
9. That's all right.
10. Don't apologize.
しかし,ここでは謝罪の表現とその応答表現が列挙されているだけであり,このままではこの教材は単なる“Phrase book”にすぎず,学習者の伝達能力を養成するための有効な資料とはならないと思われる。
本稿では,アメリカ英語における謝罪に関する表現を教材化していく上で必要と考えられる言語使用のルールについて,社会言語学の視点から検討してみたい。