これまで筆者は、『公孫龍子』六篇の中、指物論・堅白論・白馬論の三篇について、私見を述べたことがある。引き続いて小論では、残る三篇の中から通変論を取り上げ、そこに展開される公孫龍の論理学的立場を考察してみる。
通変論は、条件の変化にかかわらず、常に一定不変の独立性を維持する普遍概念(通)と、与えられた条件の変化につれて、自らも性質を変化させて行く特殊概念(変)との関係を主題とする。しかしその内容は、古来難解をもって聞こえる『公孫龍子』の中にあっても、指物論と並んで、とりわけ難解である。もとより、すでにさまざまな解釈が試みられてきてはいるが、そのいずれもが、筆者には納得しがたい部分を多く残している。そこで小論においては、まず通変論に対する筆者の理解を提示し、ついでその思想的特色を指摘することにしたい。
解釈に際しては、明の崇徳書院二十家子書本を底本としたが、一箇所だけ道蔵本により校訂を加えた。また行論の便宜上、原文を意味上の段落毎に区切って、それぞれに番号を付した。