Memoirs of the Faculty of Education, Shimane University. Educational science

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Memoirs of the Faculty of Education, Shimane University. Educational science 30
1996-12-27 発行

直信流柔道について(I)

Jikishinryu Judo(I)
Fujioka, Masaharu
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 加納治五郎は,明治22年の大日本教育会での講演「柔道一班並に其教育上の価値」の中で次のように述べている。柔術について「柔術は元来の目的は勝負の法を練習するところで御座いました(中略)唯々幾分かの改良を加えてさえすれば,柔術は體育智育徳育を同時に為すことの出来る一種の便法となることが出来る」と言い,柔道について「数年間工夫を凝らし遂に一種の講道館柔道というものを拵えました(中略)其柔道と申すものは體育勝負修心の三つの目的を盛っておりまして」と言って,体育,勝負,修心の三つを習得することが講道館柔道の修行目的であると言っている。
 この体育,勝負,修心の三つの目的について,大滝は「東京大学で受けたフェノロサの哲学史の授業など,当時の最先端の教育の影響も考えられる。明治の教育界に浸透していたスペンサーの教育論などを学び,いわゆる知育・徳育・体育の三育主義に通ずる全人として調和のとれた教育を考えるに至った」と言い,佐々木も「教育者であった加納は,ハーバート・スペンサーの知育,徳育,体育の三育論を取り入れ,柔道に三つの目的を持たせたのである」と言って,柔道の修業目的にハーバート・スペンサーの教育論(三育論)が大きな影響を与えたと言っている。
 また,柔道は柔術に幾分かの改良を加えて拵えましたと言っているように,加納は福田八之助,磯正智に天神真楊流を学び,更に飯久保恒年に起倒流を学び,この両流の柔術を中心にして柔術諸流の長所と自らの工夫を加えて講道館柔道を創始したと言われている。
 この起倒流系の柔術である松江藩の直信流柔道について福田は「唯技術のみでなく修心・体育・武術の三目的を考えられたもので,勘右衛門が単に武術として発達した柔術にかような高遠な理想をつけて術より道に進み,乱取を主とせず精神修養を主とした功績は史上無比の英傑である。即ち松江藩の直信流柔道は我が国最古の柔道の起源であり講道館柔道の淵源をなすものである」と言っている。この事からも講道館柔道は,ハーバート・スペンサーの教育論以上にあらゆる面から柔術諸流,中でも起倒流系の影響を大きく受けていると言える。
 この起倒流系の柔術である直信流柔道についての研究は綿谷雪(武芸流派大辞典),福田明正(雲藩武道史),山本義泰(柔術の技法と思想),藤堂良明他(直信流柔道について)等があるが「直信流柔遣の詳しい歴史や内容についての研究はあまりなされていない」のが実状である。
 そこで本研究は,まず直信流柔道の「直信流柔道業術寄品巻,直信流柔道中央書の序,直信流柔道業術書,直信流柔道業術名目」等の資料や文献により,直信流柔道の成立,名称や技法について考察する