島根農科大学研究報告

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島根農科大学研究報告 12
1964-01-10 発行

公有林野の使用権(1) : 島根県三瓶山における「入会放牧権」の法的性格

Usufructuary Rights in Public Forest-Pasture(1) : Legal Character of the "Right of Common Pasturing" in Mt.Sambe, Shimane Prefecture
Saito, Masao
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 本稿では島根県三瓶山における市町村有林野の上に入会放牧権が存在する場合について,その法的性格を追求しようとするものである.そしてそれは現在,特別地方公共団体の一つである市町村の「一部事務組合」(地方自治法第284条に規定する)牧野事務組合が牧野を管理し,ここでの入会放牧権の場合にその権原Rechtstitel,titleが,旧来「数村入会放牧権」であったのに対して,その土地所有権の公的変遷,したがってその管理権能の干渉によって,次第に入会権の内容を解体してきた事実を実態調査により報告するものである.
 この報告は,昭和37年(1962)2月に発表した「三瓶山における土地利用権」に加筆したものである.
 現在(昭和36年)三瓶山における土地利用権には温泉権を除いて,大体次の四つのものがある.
 (1)牧野利用権,これは旧来からの慣行入会利用権で,放牧利用権と採草利用権の両者がある.牧野利用権は最も広大な面積を占め,従来約1,500町歩といわれているが,現在は山麓平原の約1,310町歩と考えられる.この牧野で三瓶牛(黒毛和牛)の放牧生産が行なわれている.
 (2)開拓利用権,これは終戦後,強力に展開された開拓政策による営農利用権である.これについては多くの問題を内包するが,ここではふれない.
 (3)造林利用権,従来から周辺の私有地にも若干の造林はみられるが,問題となるのは昭和29年(1954)以降の<おおやま>部分の営林署買い上げによる国土保安と経済林経営をねらう国有地造林の展開である.この面積は712町歩余を占め,放牧利用権や次の観光利用権と競合関係が顕在化する.そこでその調整が問題となるが,これについてもここではふれない.
 (4)観光利用権,最近地元の大田市の発展に一役を買わされている三瓶山の観光事業が強カに推進されている.これは県や市の観光行政と一緒になって,この地域一帯の観光資源の開発を計画するものである(昭和38年(1963)4月10日,国立公園に指定).そこで従来からの牧野利用権,開拓利用権,造林利用権のほかに,さらにもう一つ加わって観光利用権と四つの土地利用権が三瓶山に向かって殺到している観がある.したがって,そこには四者の間に複雑な結合関係や対抗関係とその間の調整関係という諸問題が存在する.
 本稿では,これらの諸問題については直接ふれることができない.ここでは以上四つの土地利用権のうち牧野利用権のみを取りあげ,しかもその性格を要約的に報告するにすぎないものである.
NCID
AN00108241