北京における子供の伝承遊び

　筆者は1978年7月から1979年8月まで北京に滞在したのを機会に，折を見て北京の子供の遊びについて調査した。調査は下記1～5の方法で行った。
　1．街頭で日常見かけられる子供の遊びを観察し，記録する。
　2．幼稚園や小・中学校を訪問して子供たちから各種の遊びについて聞き出し，実演を観察し，記録する。
　3．特定の地域の子供集団を反復訪問し，子供と遊びながら記録する。
　4．成人のインフォーマントから子供の頃の遊びの体験を聞き，記録する。
　5．文献に記載されたものを調査する。
　1～3によって北京における現代の子供の遊び（主として屋外遊び）の幾つかを採集することができた。2の調査の訪問先は次の各校（園）である。北京大学附属東大地幼児園，北京大学附属小学，人民大学附属中学，北京外国語学院附属中学。3の調査の訪問先は次の各地である。北京友誼賓館（ホテル）従業員アパート，北京市市政第四公司（建築会社）労働者住宅。
　また4によって，1～3によっては採集の困難な屋内遊びや，いわゆるプロ文革中、あるいはそれ以前の子供の遊びの状況について若干の知識を得ることができた。主な成人のインフォーマントは次のとおりである。北京大学学生，大学事務職員，大学教官，外交部通訳官。
　5については調査不十分だが，現代中国の子供の遊びについてまとまった記述のある中国の文献は今のところ管見に入らない。日本の文献には後記文献(1)(2)(3)がある。
　本稿ではこの調査によって得られた資料のうち，「伝承遊び」（後述）と考えられるものについてその分類試案を示し，主な遊びの概要を記述する。
　調査にあたっては現地の多くの方々に行きとどいたご援助をいただいた。また，永田栄一氏は筆者の北京滞在中，調査方法等につき助言のための通信を寄せられ，帰国後は録音をもとに採譜資料を提供された。李梅子氏は録音の文字化にあたって懇切な教示を与えられた。顧海根，岩佐昌�両氏は詞章の翻訳について助言を与えられた。報告に先立ち，これらの方々に厚く御礼申しあげる。