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タイトルヨミ
メイジ ゼンキ ノ トクイク ニツイテ
日本語以外のタイトル
On the Moral Education in the Earlier Period of Meiji Era
ファイル
言語
日本語
著者
島田 雅治
内容記述(抄録等)
歴史をあとづける時、一般に道徳教育が特に主張される時期は、きまつて戦争とか杜会的変革――不景気・労働運動の活発化、思想的対立など――とかの、いわゆる危機的局面に結びついていることが知られるのである。わが国においては、昭和33年10月から学校教育の中に、「道徳時間」が特設されていることは周知のことであるが、その特設に際して、これまでにないほどの激しい賛否両論が戦われたことは、未だ記憶に新しいところである。しかして、この道徳教育に対する胎動は、すでに早く昭和26・7年頃から始つていたといえよう。この頃一般国民の道義心の頽廃にあわせて、青少年の不良化傾向が格別大きく世の注目をひくようになり、またサンフラシスコにおける対日平和条約の調印をめぐつて、左右の思想的対立も一段と激しくなつて来た、他方ではまた、朝鮮動乱も勃発するという状況であつた。しかもこれらにあわせて、教育界においては、「教育の中立性」の問題が大きく取りあげられ、それとの関蓮において「教育の政治的活動の禁止」が規定され、続いて「勤務評定」の実施、「教科書検定制度」の復活、「教育課程の改訂」などが、激しい対立の中において実施されて来た。そしてこれらを契機とし、背景として、次第に道徳教育の強調が望まれるようになつて来たことは、人のよく知るところである。
 これのみならず、少しくさかのぼつて日華事変及び大平洋戦争の頃の、政治的・経済的。・社会的・思想的状況はどうであつたか。すなわち言葉をかえていえば、その頃の道徳教育の背景、特に修身・公民科を強く支えていたものはなんであつたか。そしてそれがどのように重視され、その内容はどうであつたか、などについては今さらいうまでもないであろう。
 このように、われわれは歴史の流れをひもといていくとき、道徳教育が特に強調された、いくつかの時期をあとづけることが出来る。そしてその間の政冶的・経済的・社会的・思想的状況など、さらにはそれらにもとづく文教政策などの密接な関運において、修身・道徳が特別に重視され、強調されねばならなかつた、また強調させた諸要因を浮彫にすることが出来るであろう。
 しかして教育史・教育制度や致育思想の発達、さらには道徳思想の発達が、明治の絶対主義国家の形成に果した役割などについては、従来殆ど研究しつくされれたかの観がある。けれども道徳教育が何故にそのように主張し、強調されねばならなかつたかを、政治的・経済的・社会的・思想的状況などの背景を凝視して研究したものは、甚だ十分ではないようである。
 この小稿は、このような点を考慮しながら、明治前期――ここでは明治19年の「小学校令」が出るまでを一応前期とする――における道徳教育の実態を把握し、そしてそれが特に明治10年代において、格別強調されねばならなかつた経緯、背景を、当時の杜会的・思想的諸要因――これらと関連して政治的にも――を中心として、解明し、つきとめていこうとするところに、そのねらいがある。
 しかし当時の社会的・思想的諸要因を分析し、検討して結論づけることは、もとより容易なことではない。従つて、この小稿はそうした意図の一つの試論とでもいえよう。
掲載誌名
島根大学論集. 教育科学
10
開始ページ
50
終了ページ
59
発行日
1961-03-20
NCID
AN00108117
出版者
島根大学
出版者別表記
Shimane University
資料タイプ
紀要論文
ファイル形式
PDF
著者版/出版社版
出版社版
部局
教育学部
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