中国地方の脊稜付近から山陰にかけての地域には,中生代末から古第三紀の火山岩・貫入岩類が広く分布する(ICHIKAWA et al,1968,飯泉・他,1979)。これらの火成岩類は,酸性ないし中性岩類を主体とするものの,斑れい岩などの塩基性岩類の活動も含まれる。
烏取県から岡山県北部の地域には,斑れい岩や石英閃緑岩,斑れい岩~文象斑岩複合岩体などの塩基牲岩類が比較的まとまって分布している(鳥敢県,1972)。それらの一部については,その活動時期が再検討されているものの(本間,1975),大部分は大規模な底盤状花崗岩質岩類の活動に先行したものである(山田,1961,笹田,1978)。鳥取県南西部の根雨南東方から岡山県北部にかけて分布する斑れい岩類,閃緑岩類,およぴ微文象花崗岩等の活動もその1つである(服部・片田,11964,HATT0RI and SHIBATA,1974)。
村上(1974)は中国地方における中生代末~古第三紀の火成活動を,領家帯・広島帯・山陰帯(因美帯およぴ田万川帯)に区分し,それぞれの帯における地質学的・岩石学的特徴を明らかにするなかで,各帯における火成活動はより塩基性のものから酸性のものへ移行することを指摘している。その意味では,根雨付近に分布する塩基性岩類の活動は,因美帯における貫人岩類の活動の初期のものに相当するものである。
このような塩基性岩類の研究を進めることは,牛来(1973)によって指摘されているように,その後にひきつづいて活動した花崗岩類を主体とする大規模な酸性マグマの活動の性格や成因を明確にする上で重要な意味をもつものと考えられる。
本稿では,根雨付近に分布する,この種の活動の一環として形成された,朝切谷花崗閃緑岩体についての地質学的・岩石学的記載,およぴ岩石・鉱物の化学的性質について報告する。なお,本地域に分布する斑れい岩類については稿を改めて報告する予定である。
本稿をまとめるにあたり,岡山大学温泉研究所の田崎耕市氏には,X線マイクロアナライザーによる鉱物分析について御教示をいただき,かつ多くの御討論をいただいた。同研究所の本間弘次氏には,本研究を進める過程で多くの貴重な御意見をいただいた。小林英夫氏をはじめ,島根大学理学部地質学教室の方々からは日常的に御討論をいただいた。また島根大学の市場実氏,岡山大学温泉研究所の麻田斉氏には多数の岩石薄片を作製していただいた。上記の方々に深く感謝する。