へーゲル(George Wilhelm Friedrich Hegel 1770-1831))が國家に個人を超越した意義と目的とを認むるとごろの國家主義と軍國主義とを、その哲學説の内容とした超個入主義的國家主義をとるに至つたのは、イェナ(Jena)退去後ハイデルベルヒ(Hidelberg)大學教授(一八一六)時代を経てベルリン(Berlim)大学教授(一八一八)へ専任の後のことであつて、國家と個人の関係に対する從來の思想を根柢より破壊して、そこに徹底した超個人主義的國家主義、つまり具体的全体主義の概念を明確にしたのであった。
惟ふにへ−ゲルは、その精神現象論(Phanomenologie des Geist von Lasson,S 21)に於ても「眞なるものは全体者」、その全体とは、「その発展を通じて自已を完成する本質」と考へた。然らばへーゲル哲學に於ける如斯、全髄主義的色彩は如何なるところから出て來るものであらうか。
ここに於てへーゲル哲學そのものであり、へ−ゲル哲學の一つの重要なる具体的姿とも云ふべき法哲學即ち法哲學綱要(Grundlinien der Philosophie des Rechts,1821)の基礎的課題、つまりその客観的精神(Objektiver Geist)の内包するものを検討することが要請される。